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国語科教室
海のいのち(6年)(授業参観レポート)
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 1、生き生きと表現する子が育つということ

 宝塚市B小学校は、「生き生きと表現する子が育つ」ことを目標に3年の研究の歴史を刻んでいる学校。研究の出発は、とにかく、読んで読んで読むと、徹底して音読に拘って実践を積み上げて来られた。子どもにとって魅力ある方法なら、何でもとどん欲に取り入れ授業を作ってこられたという歴史がある。
  教室の子どもの声は明るく弾んでいる。どの子もが、読むことが楽しくてたまらないという表情が溢れる。主任と学級担任の共同研究である。
「明るく活発な子が多い。音読大好き、音読タイムでは、大きな声で詩を読んでいる」と実態を指導案で示している。課題は「内容を把握するのがやっとという子もいる。受け身になりがちな国語の授業が、少しでも主体的に考え、深め合えれば」という願いを持っての授業作り。

教材「海の命」(立松和平)について、次のように教材観を指導案に示している。

「海で生き、海に住み、そこを自分の海として最後に帰っていく漁師たち。主人公太一 はこの海で育つ。うみという自然を舞台に、主人公の成長の姿が描かれている。太一 は村一番の漁師である父のことを誇りに思い、父と同じ道を歩もうと夢見る。しかし 尊敬する父は巨大なクエの前に命を奪われてしまう。与吉じいさの弟子入りをして成 長をしていくが、太一の人間としての飛躍的な成長は、まさしく父の命を奪ったクエ と対決時にこそある。クエを捕らえることを夢見ながら、クエを殺せなかった太一は、 そのクエの父を見、大自然の命を見る。つまり、クエは、太一たちを包み込む海その ものであり、父や与吉じいさにつながる「命そのもの存在」に思えたのではないだろうか」

 教材の特性をこのように捉え、学級の実態とつないだ指導は全10時間扱い。
  場面ごとに課題をもとに読み深め、好きな場面や文を見つけたり、読み合ったり、鑑賞するというもの。つまり、「生き生きと表現する」ということについては、次の仮説によっている。
  @子どもが好きな部分をみつけることが出来れば、その文を足場に、思いを表現したり自らの読みを声に表せ   るだろう。
  A教材「海の命」 、子どもがどの部分に心引かれたとしても絶えず、全文響く部分であり、主題に関わった読    みが出来るとい特性がある
  Bこの読みを全体に広げる中で、全体としての調和を求めたり、部分との関わりを話題にしながら、共に高まり  のある読みを目指す過程で生き生きとした表現をする子が育つ。
  つまり、個の読みを確立することが全体の読みを高めることになる。全体の高まりがまた、個の読みを鍛えるという考え方である。
 

2、授業の実際と考察

 本時は次の目標をめざしての授業である。
  @心が動かされた場面を見つけ、発表する。
  A人物の気持ちや情景が、聞き手に伝わるように、全文を朗読する。

 目標,@は話し合い、Aは発表という構成になっている。前時まで8時間。ほぼ全体についての見通しがあり、子どもが自力で読むのも飽和状態に達しているとみたい。
  教室には今までの学習の足跡を示す掲示物がびっしり。学級の高まりに圧倒される。正面の黒板には、挿し絵の拡大コピーが掲示していて、発言の位置が理解できるように配慮している。(以下授業の場面ごとに感想を付け加えながらまとめていくことにする)

       ※       ※         ※

 T 全文を通して良かったこと、心が動いた、感動したというところを発表しましょ う。一の場面から。
  C 「ぼくは漁師になる。おとうといっしょに海に出るんだ。」
    訳は、だれにももぐれないような海にもぐれる父を尊敬していたから。  
  C 「海のめぐみだからなあ。」不漁の日が続いても父は何も変わらなかった。自分だったら自慢をすると思う。  
   ※参観レポート@
☆感動したことを一文、あるいは、場面で表すということはかなりの読み込 みが必要である。さりげなく発問を  したこと、それを受けて、発言をしたとを併せると、子どもなりの自分の好きな言葉があるらしい。

☆父に対する尊敬の念を、冒頭の文から受け止めて感性、自分と比べた発言等、自信が見える。しかし、たくさんの言葉の中で、なぜそれを選んだのか、その言葉がどれに響くのか。という揺さぶりをかけてもこの子たちは、 説明をするのだろうか。それとも、他の言葉へ動くのだろうか・・・選ばれた言葉が見事なだけに更にという欲も出た。
☆子どもの選んだ言葉の意味として、このようにまとめる力をついたということで評価をする面と、ここからどう高めるかという面とで指導の方向が分かれる。本時は前者であろう。

        ※       ※         ※

 T では2の場面で良かったところや心が動いた所を発表しましょう。
  C 「千びきに一ぴきでいいんだ。千びきいるうち1ぴきつれば、ずっとこの海で生きていけるよ。」
   訳は、与吉じいさは、毎日魚を少しずつとって、海を愛する気持ちがあったから。
  C つれるのだったら、いくらでもつるが、それでは、海と生きていけない。
  C 海の命が変わらないように、少しだけとるから。
  T 3の場面ではどうですか。
  C 「真夏のある日、与吉じいさは、暑いのに毛布をのどまでかけてねむっていた」
    訳は、太一にいろいろなことを教えてくれたのに、与吉じいさが海に帰ったから。 C 「海に帰りましたか」
    父と与吉じいさのおかげで海に生きられる。心から感謝をしている。
  C 弟子にしてもらって、いろいろ教えてもらって感謝をしているから。
  C 「父もそうであったように、与吉じいさも海に帰っていったのだ」
     与吉じいさも海へが、悲しいけれど、何かいいなあ。
  C 太一は、むりやり与吉じいさの弟子になって感謝をしている。
  T 「悲しみがふき上がってきたが、今の太一は自然な気持ちで、顔の前に両手を合わせることができた。」
    普通、なくなったとき、泣いたりするのに、太一は普通に顔を合わすことができ   たから。

     ※参観レポートA

☆授業を参観しているときは気づかなかったが、授業記録を読み返し見ると文の細部に深い思いを込めて読んでいることが分かり、ひしひしと感動が迫ってくる。
  太一に、海の偉大さ教えた与吉を子ども感性は鋭く捉えている。「悲しいけれど何かいいな」とか「普通だったら泣くのに」という発言は、もし言葉を持っていたら、もっと主題を自分の言葉で表現できるであろうと思える深さも感じる。
★子どもたちが、かなり、的確に自分の読みを表現しているのは、発言の方法が分かりやすいからである。「文章の事実・訳」という発言パターンが効果を発揮しているからである。
☆発言の深さ、鋭さをどのように個人に返し、集団で共有出来るかが、これからの課題であろうと考えた。しかし、ここまで高まるには、積み上げと、指導者の意図がひとつにならないと出来ないことである。授業はこの方向で進んでいく。

        ※       ※         ※
T 4の場面をどうぞ
C「とうとう父の海にやってきたのだ」
  太一はおとうが死んでから、漁師になって、与吉じいさと、海に来たけれど、子ど  もの時からの夢で、おとう  の海に出られた。
T「いかり下ろし」から読んでもらいましょう。

     ※参観レポートB

☆ 教材「海の命」はどの部分を切り取っても、海に生きる太一の姿がつよく感じられる。従って、子どもが取り上げる文は、その子の心に深く刻み込まれたものだある。それは、授業の後半に、全員で部分を受け持って読み合うという群読と朗読の要素を取り入れた学習効果であろう。      
☆「とうとう」を挙げた子は、ここまでの読みの蓄えを、ここで一気に掘り下げたのであろう。教師の助言も、ここを位置づけさせたいという意図があったのかもしれない。
☆「いかりを下ろし、海に飛び込んだ。はだに水の感しょくがここちよい。海中に棒になって差しこんだ光が、波の動きにつれ、かがやきながら 交差する。・・・」文学というのは、このような背景を味わいながら、生き方を考えるとすれば、「とうとう」にたどりつく文を鑑賞することも大切である。支援という位置づけをするなら、ここで教師の読みを披瀝してもよかったのかなと授業記録を見直しながら素朴に感じた。

        ※       ※         ※

T じゃあ、いよいよ5の場面です。5の場面でもちょっとずつ違うから、誰からでも どうぞ。似ていたら、つけ足してね。
C 「クエに向かった、もう一度笑顔を作った」
  海に帰ったお父さんに対する、優しさが表れている。
C 海に帰った、お父さんや与吉じいさを思う気持ちが表れている。
C 「水の中で、太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくをだした。」
  どうしても不思議だから、この魚を捕らなければと思ったのに、態度が変わったか  ら。このクエが父と思えた から。
C「おとう。ここにおられたのですか。」
 ずっと、海に帰ったおとうを探していた。追い求めていた。
C 太一は、もりをつきだしても動かないクエが、お父さんと似ていてた。クエをお父  さんと思うことによって、殺さないことにした。
T「もう一度もどってきても、瀬の主は全く動こうとはせずに太一を見ていた。」
   2回もクエを見に行くといってもどって来たからそれくらい夢中になっていた。
C 「水の中で、太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくをだした。」
   おとうととクエが一緒になって、クエに向かって笑顔を作る。おとう会えた。クエ  とおとうが同じ。
C「おとう。ここにおられたのですか。」
   クエにもりをつきだしてもまったく動くかなかった。不漁の日が続いても、全く何  もかも分からなかったおとうの姿がクエの姿と重なっている。
C「おとう。ここにおられたのですか。」
   昔と違って太一は、すごく成長したんだな。

     ※参観レポートC

 ☆同じ形式の発言を続けると、緊張感がなくなる。どのように話し合いを盛り上げるかが課題になる。いよいよ山場という時になって、いわゆる、発言への意欲を高めるには、主題と向かい合うことが大切であろう。本時の場合、多くの子が5の場面に集中しているという実態がある。その部分を確かめ、解釈の違いを明らかにすることもひとつの方法であろう。
☆発言には、全体に響くものと、個人的なものがある。その見極めをどうするかであろう。最初に発言をした子感想を聞く、意見を確かめるという変化も授業に緊張感を与える。

        ※       ※         ※

T みなさんの書いていたことに「殺さないことを選んだのは、成長したんだ。一人前の漁師になったのだ」というのがありました。びっくりしました。
  ところで、海の命って何だと思いますか。

     ※参観レポートD

☆授業研究会で、芦田先生は「予定になかったこと」という意味のことを 発言された。が、「予定にはなかったが、良い場面だった」という評価も付け加えられた。授業を参観した者も、レベルアップの瞬間と考えた。      話し合いが飽和状態になったいたことを感じたからである。つまり、1場面からかなり質の高い発言あり、それをもとに話し合いで深めるという雰囲気ではなかったという背景がある。 

 ☆「海の命って何だと思いますか。」という発問に、子どもの反応は鈍か った。教師の知りたいことがストレートにでたからであろう。しかし、次の発問の言い換えで子どもの心が動いたのが分かった。

        ※       ※         ※

 T「海の命」というのは、自分では何を表していると思いますか。
  C 太一がおとうとと思った百五十キロを越える大魚が海の命
  C 同じくクエ。訳は父と与吉じいさの命がクエにうつった。
  C 海の中にいるすべての生物。
  C 父がずっとクエだけを大事にしてきたのではなくて、すべて。
  C すべての生き物。ひとつだけはおかしいから。
  C その海の生物すべて。訳は、海の命は変わらぬ。
  C 海で生きているすべて。巨大なクエがおとうだと思ったなら、海で生きていたお   とうの命も海の命。
  C すべてだと思う。たった一匹のクエだけならつまらないしすべてだと思う。
  C 巨大な大魚だと思う。訳は考えていない。
  C 百五十キロをゆうに越えている大魚。
  C 魚も生物も与吉も。父は海のめぐみと言っていた。海を愛していた人の心だと思   う。
  C 漁師たちとか海を愛していた人の心がある。
  C 発表を聞いて考えが変わった。海の中の生物たちだから海のめぐみが海の命にな   る。
  T 自分が描いた海の命ということで今から朗読をしましょう。

     ※参観レポートE

 ☆指導案に次の言葉がある。
 子どもの考えた「海の命」はこの指導者の願いに近づけるものであったしかし、発言の内容が互いに関わるというより、思いを出し合うという意味合いの学習活動である。子どもが、直感的に感じたこと、互いに刺激されて深まったことについては、はっきりしないが、ひとつの方向でまとまりをみせたことは確かである。
  ☆子どもの発言態度には、次のような傾向がある。
           ・聞き手を教師に求める(評価を求めている)
           ・聞き手を友達に求める(話題の広がりを求めている)
           ・考えながら発言する(考えを整理している)
 子ども同士の発言の中で、考えながら発言をするように高まればいいのであろうが、そのためには、越えなければならない壁がある。

3、成果と課題
 @ 生き生きと表現をすることに向けて、子どもの読みを徹底したとが、自信と緊張をもたせ、それが教材とうまく解け合っていた。子ども声、発言の内容と鍛えられているという印象を強く受けた。
 A授業が発表会の形になったので、本時までの積み上げ、書き込みの如何が深まりということになった。子どもの発言をどう高めるかは、授業構成と関わった今後の課題になる。
 B板書のキーワードを拾うと次のようになる。
 尊敬・海を思う・心・海の命が変わらないように・立派な漁師・海で生きられる・成長・不思議・子どもの頃から夢

 この言葉が、どのように絡み合うかが授業では見えにくかった。というのは、発言の引き出し方、広げ方と授業の構成に今後の課題を残したということだろう。  C私案として再構成をすれば次のようになる。
      ◎ 心に残った文を発表する。
      ◎ 発表した文とつなげながら、自分の見つけた文の意味を作る。
      ◎ 場面を決め、あるいは役割を決め、一人で、みんなで読み合う。
   つまり、子ども自らの読みとりを大事にしながら、高まりを求めるたいのである。
     C 僕の読んでほしいと思っていたように読んでもらった。
     C 気持ちとしては、このように読みたかった。
   というような発言のある授業にしていくにはどうすればよいかが課題である。

 
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