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 一 高学年の子が輝く時

 高学年の子どもは、低学年の子のよう派手さや華やかさはないが、授業の随所で輝いている。「静かに燃える」という表現がぴったりの学年である。

 物語「わらぐつの中の神様」(五年)の学習。学習の発展として後日談が話題になった。おみつさんと大工さんは結婚してからの日常生活についてである。二人は喧嘩一つしないで仲良く暮らしたであろうという意見が大勢を占める中、じっと話し合い聞いていたS子が次のように発言をした。
  「二人が一緒に暮らして、けんかをしなかったということはなかったと思います。でも、けんかをしても分かり合え るのです。けんかをする時に言っている一言一言が、大工さんとおみつさんにとって、相手ことをより深く分かり 合えるチャンスだったのです。」
  喧嘩もしただろうという意見に共感を示す子もあったが、喧嘩することで分かり合えるという意見には、納得できない子もあり、授業は沈黙の空間を生み出した。中には
  「言っている事が分からない。」
と、突き放す子もあった。S子は次のように続けた。
  「けんかをしても、大工さんはいつも、おみつさんに一歩ゆずっていました。おみつさんを神様みたいに大事にす  ると、大工さんは言っているから、絶対です。」
この補足で、子どもたちは納得をした。中にはふさげて、
  「おみつさんは大工さんが、大好きに、大好きになってし まいました。その熱い心を冷やすことは誰もできませ んでした。おしまい。」
と、おどけるように言う子も出てきた。S子の心の中には、物語へのしっかりとした思いがあったし、その思いを学級全体で理解し合えた時間であった。
  その授業までのS子は、話し合いに積極的に参加をするという子ではなかった。が、文章の細部にへの書き込みを丹念に続け、自分の出番を待っていいた子であった。
  S子を高学年の子どもの輝く姿として捉えるとしたら、次のような姿においてでる。
  @学習の流れや方向を把握し、自分の出番をしっかり と見極めていること。
  A自分の考えを生み出すために、蓄えてしての学習を 積み上げていること。
  B勝手な思いつきではなく、根拠をもとに納得させるだけの論理を持っていること。
  物語の後日談という番外編がなければ、S子の考えは学級に広がらなかったかもしれない。それでも、S子はそれがマイナスになっているとは思わないであろう。学級には第二、第三のS子がいて、「いつか自分も」という期待を持っているからである。輝く姿に付け加えるとすれば、
  C友達の良さを認め、高まり合う喜び共有できる。
  従って、子どもたちの中にある輝く部分を、子どもに寄り添いながら見つけていく。そして、その子がもっとも伸びるであろう時を捉えて活躍の場を設定する事が、高学年の子を生かす秘訣である。

二、高学年の子どもの発達特性

 五年生の子に授業中の気持ちを尋ねた事がある。それは、ノートに自分の読みを書き、考えを持っているのに、積極的に発表をしないことが不思議だったことが動機である。 「先生が、授業でこんなふうに質問をしてくれたら、発表ができる、自分の気持ちが出せるのにと思うことを書いて下さい」
という内容であった。回答は様々であったが、その中でなるほど得と思ったものをいくつか挙げてみたい。
  ○私は、人の前で何かを言うのがはずかしい。だから、 自分からは手があげられません。先生が当ててくれた ら答えられるのだけど。
  ○先生の質問は、時々分かりにくい言葉が出てきます。だから、ぼくたちの言葉になおして下さい。
  ○先生が、「あなたはどう思っているの。」とか「あな たが、今、考えていることを言ってね。」と言ってくれ る   と、もっとはっきりと自分の考えが言えると思います。 これらは、五年生の子どもの回答であるが、ある部    分、学年の子どもの本音である。そこには、自分から進んでというより、何かのきっかけを求めて、壁を乗り越  えようとする姿が見える。このようなことも含めて、高学年の発達特性をまとめると次のようになる。
(五年生)
  ○自分の中にある良さに気づいてはいるが、表現することにためらいを見せる。しかし、きっかけを得れば、意   欲的に自分の持っているものを出す。
   (目的とするものが決まるまでは、はっきりと自分を出す ことはしないが、課題や目標が決まると活動が勢い   づく)
   ○確かさや豊かさを求めて、自分らしさが出せる学習活動に魅力を感じ、打ち込む。
    (書き込みを丹念にしたり、ノートの学習を広げるなど、 自分にとって役立つということには夢中になる)

(六年生)
   ○美しい表現、論理的な文章などに憧れ、自分が納得をすものを求めて学習を続ける。
    (表現の良さを対象にした学習や、主題を深く考える学習に魅力を感じるともに、学習の意味を求めるように    なる)
   ○自分が求めているにものを自覚し、抵抗や壁を乗り越えながら、よりよいものを作り上げようとする。
    (朗読にひかれたり、説明文を納得いくまで読み込もうと するなど、よりよい学習を求めていくことに意欲的    を示す)
    高学年の学習活動を組織するとき、子どもがどんな時に力発揮するのかを考え、そのを特性生かしていく    と、子どもの可能性をより引き出すことができる。

三、子どもが生きる学習活動を創造するポイント
    高学年の子どもが生きる学習というのは、静かに燃えながら力を蓄え、発揮する場をどのように組織していく   かにかかっている。そのポイントになるもののいくつかを挙げると次のようになる。 
   @子どものつぶやきなどを手がかりに、子どもの思いと  教材の特性をつなぐ学習活動を設定する。
    子ども自身は気づいてはいないが、感性鋭く教材にふれている部分がある。何かのきっかけがあれば、自    分の思いを出しながら、よりよいものへ高まる可能性を秘めている。
    次の事例は、子どもが表現の場を得て、自分の中にある良さを発揮したものである。「大造じいさんとガン」    (五年)後半に次の文章を学習していた時である。
    「おうい、ガンの英ゆうよ。おまえみたいなえらぶつを、おれは、ひきょうなやり方でやっつけたかあないぞ     。」 ここをどう読むかについて、句読点とか声の大小を話題にした。そんな、次のようなつぶやきがあった。
    C 「ガンの英ゆう」ってあるけど「英ゆう」って何。
    C 残雪のことを英ゆうっていっているのだよ。
    C それは分かっているのだけど、もう少し分からない。このつぶやきを受け止め、学習活動として生かしたい     と考えて次のように問いかけた。
    T「おうい。(      )よ。」と言う呼びかけが   あります。椋鳩十さんは、「英ゆう」という言葉を、選びま     した。あなただったら、どんな言葉にします大胆ではあったが、言葉を子どもに選ばせた。
    ガンの頭領・勇気あるガン・残雪・仲間を助けたガン ガンの親分・いげんのあるガン
    のように言葉を(   )に入れた。
    C ガンの頭領もいいけど当たり前すぎる。
    C 勇気のあるガンは残雪にぴったりと思うけど、ハヤブサとの戦いは勇気ではない。
    これをきっかけに、言葉を吟味したり、主題につながる話し合いへと学習は広がった。
   これは、子どもの中にある漠然とした思いを、はっきりさせるようと言う思いを、具体的な学習活動にしたことが  生きたものである。つまり、 「おうい、ガンの(    )」という学習活動を思いついたのは、「どうして、こんなこ  とを大造じいさんは言ったのだろう。」という疑問を持った子どものつぶやきに何かあるはずというちょっとした   で立ち止まりがきっかけである。
同じような事例が六年にもある。教材「やまなし」を読んだ子どもたちは「むずかしい」「分からない」と一瞬とまどいを見せた。分かろうとする思いが強いので、もう少し気楽に読ませようとして次のように働きかけた。
  T 文章を読んで、きれいだなとか、このような書き方はできないと思うところを見つけよう。
  いわゆる、教材の特性に目を向けての発問である。この働きかけは、表現のよさに目を向けようとする子どもの思いに合ったのか子どもは勢いづいた。
  C、青白い水の底がとても澄みきった感じがする。
  C、日光の黄金は夢のように水の中に降ってきましたという所が好きな所です。
 と言うような内容の発言が続いた。文章表現に目を向けさせた事が、子どもの内にある思いを引き出したのであ る。小さなつぶやきを見逃さず、その奥にあるものを生かす学習活動をいかに生み出すかが、高学年の授業作り のポイントである。

A形で見える条件のなかで、子どもが自らを厳しく鍛えていくような学習活動を設定する。  
  説明文「人類はほろびるか」の教材を読む前に、子どもたちに次のような課題で書かせたという実践がある。
 問い「あなたは、人類はほろびると思いますか。あなたの考えを一五〇字でまとめましょう。」
  この課題に応え、子どもたちは、先ず下書きする。その段階では、自由に書く。その後、文字数に合わせて平仮 名を漢字に直す。条件に沿わないので、更に、句読点を正したり、文を推敲したりして、制限字数にまとめていく。 次の文はこのような過程を経たS男のものである。
  今、地球は、オゾンや二酸化炭素、ダイオキシンなど大きな環境問題を抱えている。このままでは人類がほろび るのも時間の問題だ。だが、最近、電気自動車や天然ガスなど、自然にやさしいものを使っている。このように人 間の科学が、地球にやさしいもの生み出したり、人間が環境にやさしくすれば、人類はほろびる≠アとはない。( 一五〇字)

 次の段階で、教材と出会わせ、次のように働きかける。
 問い「筆者は人類はほろびると思っているのでしょうか。筆者の考えを一五〇字でまとめましょう。」
 最初に、自らの考えを字数制限というぎりぎりの所でまたとめているので、今度は、キーワードなどを気にして丁 寧に読んでいく。話題や例示、筆者の考えを区別しながら真剣に文章と関わりあう学習が続く。
 授業は、華やかな話し合いはないが、緊張した時間が続く。高学年の子はこのような真剣さに快さを感じる。
 このように、授業を作る時、条件を設定するという方法がある。文字数を決める。時間を決める等がそれである

B幅広く考えが生かせるような話題や題材を総合的に取り 組めるような学習活動を設定する。
  高学年の子が勢いづく学習に「説明文の研究」「物語の研究」「校歌研究」というような「研究」的な学習がある。
  「物語文の研究」を指導では「石うすの歌」「きつねの窓」「川とノリオ」を教材にした経験がある。
  「物語を作ろう」という課題を持たせ、「書き出しをどうするか」「人物をどのように登場させか」「物語を統一するテ ーマや色は何にするか」というように視点を決め、物語を作るという立場で複数の教材を同時に活用した。
  複数の教材を用いることは、比べる・選ぶという活動が必然的に生まれ、少し難しいものや抵抗のあるものを求 める事に憧れる高学年の子どもの心を捉える活動になった。このような、総合的な言語活動が生きる学習活動を 設定することも、子どもを生かす授業を作る上でのポイントになる。    

 
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