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言葉の落とし穴
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言葉の落とし穴(24/01/15)

 夢を持って教育の世界に飛び込んだ青年がこのまま仕事を続けるかどうか迷っているという相談を受けた。「子どもの気持ちになって考えているのに通じない」とつぶやく。
朝は、誰よりも早く登校し、教師の環境を整え子どもをむかえる。休み時間は、子どもと一緒に遊び、授業を丁寧に進めている。まじめで熱心な大石先生(仮名)である。
大石先生を追い詰めたのは、小さく見える出来事であった。
その出来事は、一冊のノートであった。子どもの自主的な活動を大切にすることを目的に「自由学習ノート」を子どもに持たせた。大石先生が小学生の頃、役だったという思いもあり、子どもに、進んで勉強をして欲しいという気持ちだった。学習の仕方によって、毎日ノートを提出する子もいたし、がんばった時に提出する子もいた。大石先生は丁寧にノートの指導を行っていた。
大石先生の学級に鈴木さんという子がいた。お母さんが恐いということを、時々口にするが、学校ではまじめにみえる子であった。その鈴木さんのお母さんから、ある朝、
「自由学習ノートを隠されている。探してほしい。」
と、いう連絡が入った。それは、大変なことと教室で探したが、どこを探しても出てこなかった。鈴木さんの記憶も曖昧で手がかりがなかった。
ノートは見当たらないが、学習が上手に進められるように配慮をするという大石先生の言葉に、一度は「よく分かりました。お願いをします」と言われていた鈴木さんのお母さんであった。しかし、数日経てから再び、ノートのことで連絡が入った。」
「きちんと探して下さったのですか。他の子が自由学習をしているのに、うちの子だけは 上手にできない。困っている。」
「ノートを隠されるということは学級にいじめがあることなのではっきりしてほしい。」
まじめな大石先生は、教室で話題にして、クラスで探したがノートは出てこなかった。
鈴木さんは、ノートの話になると口を閉ざし、だんだん硬い表情になっていくのを大石先生は気になしていたが、お母さんの注文はノートを超えて大きくなるばかりであった。
ノートのことで関係に歪みができているのに、友達関係でトラブルが起きた。ノートの件もあり大石先生は、鈴木さんと相手の言い分をしっかり聞き、その日のうちに解決をした。ところが、その出来事についても、
「友達のお母さんの話によると、友達とトラブルを起こしたらしい。ノートの事もあり、 安心ができない。」
と、連絡が入った。解決をした筈のトラブルであり、鈴木さんも気にしていないことであった。が、お母さんには納得できないことであった。
事の始まりは、ノートであったが、その後、ことあるごとに、鈴木さんのお母さんは、
「クラスの問題を、他のお母さんも心配をしている。」
「お母さんの話では、学級が上手にいっていないらしい。うちの子もそう言っている。」
ということを話題にして連絡をされたり、回答を求められたりした。
一人の母親の事ではあるが、さらに不安を抱かせる話をするお母さんの友達もいて、不安定な日を過ごす大石先生であった。 
※    ※   ※
後日、はっきりしたのは、自由学習ノートは、鈴木さんが自分でノートを捨て、そのことを見つかるのがこわくて、「隠された」という言い方で伝えたのだという。その頃、鈴木さんの家庭では、お母さんが「勉強しなさい」と口やかましく言うのがいやで、「ノートがなかったら言われないだろう」と思った。「ノートが隠された」ということで、お母さんの関心は、大石先生に向いたのである。
また、鈴木さんのお母さんはお母さんの仲間に、「ノートを隠された」と相談することにより、他にもいろいろあると、不確かな噂を小耳にする機会が多くなり、それが、不安を加速したのである。
鈴木さんのお母さんが、ある段階で、自分のしていることが子どものためと思いながらそうでないと気がついたのは、お父さんの言葉であった。
「自分のことをしっかり話ができない子どもを育てのが親の仕事。親に本当のことを言えなくしているのも親の責任。それ以上に、自分の子どものことでありながら、噂に心をとられ、しっかりした判断ができなった未熟さを反省すべきだと思う。」
鈴木さんのお父さんの言葉のように、噂に動かされて、判断力を失った言葉や行動が、子どもやクラスを動揺させ、青年教師の夢を摘むとしたら、我が子のためとはいえ、責められる事であろう。
言葉の落とし穴に気を付けたい。

 
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