電話の向こう(23/12/23)
子どものことになると前後の脈絡を考える余裕は親にはない。その場の直感で判断し言葉にしてしまう。それが、「勉強しなさい」であったり、「がんばりなさい」になる。この言葉も繰り返し言われると、こわいという気持ちに変わっていく。時には、その場逃れの嘘にもつながる。「知らない」「ぼくではない」から、最近では、「覚えていない」と言う子に出会った。子どもの智恵は次々と自分を防御する方に働く。
時には、それが。自作自演の嘘ということもある。友達のせいにすることもある。
※ ※ ※
「手提げ袋にいたずらをされた」
母親の電話が険しい。少年の手提げ袋にいたずらをされる状況はその日はない。その理由を説明しても電話の向こうでは納得する反応はない。
「連絡帳を隠されてしまった」
これも電話の向こうの声。その連絡帳には子どもに不都合なことが書かれている。隠されたという智恵を持って、木陰にわからないように置いているのを、翌日一年生が見つけて届けにきた。「その一年生に隠された」と家庭では告げている。
「先生は僕に教えてもらえなかった」
どうして、自分の子に教えてもらえないのかと不満な声。宿題の予告を聞いてこなかった子の母親の怒りである。「本当に教えてもらえなかったの」と聞きただすと「覚えていない」と言う。
※ ※ ※
共通するのは、本当のことが言えない母親と子どもの関係。自分でなく人のせいにしていれば、その日は強く叱られることはないことを知っている。だから、母親の小言を聞くより先生や友達、あるいは、思いついたことをその場しのぎに言い訳に使う。言い訳が上手になると、更に、次の言い訳を考える智恵がつく。その都度、母親は受話器に向かう。
「そんなことはありません」とでも言おうなら、噂話から幼稚園や保育園の話まで広がることを知っているので、受け手は聞き役に回る。電話で大事な話が解決すると考えるのが甘いことを理解できていない。仕掛け人の子どもはゲームで遊んでいる。一番安全な時間であることを知っているから。
|