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国語科教室
信じるということ
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 夢が一杯で、青天井のような希望で溢れているはずの子どもたちの顔に勢いがないのが気になる。
 児童虐待の被害者になったり、反社会的行為をして大人を困らせる子どもが増えたことにも驚かなくなった社会の風潮も悲しい。

 確かに、子どもは大人を試すように、忙しい時に限って病気になる。こんないい子がと思っていた子が、突然、予想もできないような悪さをする。それが、子どもだと思えば大きな目で見られるのに、世間体を気にしたり、大人と同じ尺度で判断をするので、高圧的になったり、現象面だけを責めて、子どもを追い込んでしまう。自分の気持ちをどのように表現をしたらよいかをしらないことから、無理なことをいうことを理解したら、その都度、正しい判断力を豊かに生きる知恵を身につけていくのにと思う昨今の世相である。
かつて、小学校の教壇に立っていたときのこと。落ち着いて教室で勉強ができない子がいた。隣の子には手を出す、教室を歩き回るとうことは日常的で、他の子の迷惑をかけたいた。両親も恐縮して、子どもを叱ったり注意をしたが、その性行は直らなかった。
いろいろな方法を試みても効果がなかったのに、ある時、
「辛抱して、椅子に座って勉強できる時間は どれくらいですか」
というようなことを話題にして、自分の行動について考えさせる機会をもった。
「三分くらいなら辛抱できる。」
と、いう答えをえたので、
「じゃあ、三分辛抱しよう。」
と、約束をして授業に臨ませた。三分が過ぎた時点で約束が守れたことを認め、それ以上は求めなかった。そのうち、三分が五分になり、一〇分、二〇分と長くなった。
気がついた時は、教室を立ち歩くこともなく友達と一緒に勉強を楽しむ子になっていた。 その当時は、夢中だったので何がよかったのか分からなかったが、今から考えると「この子にはいい子になりたいという気持ちがある」信じていたことだろう思う。

「信じる」ことは言葉で言えば簡単だが実際は難しい。しかし、それを貫くと思わぬドラマの生まれる。
これも教壇に立っていた時のことだが、小学校の高学年にもなると、自分がみんなにどのように思われているかを知っている。自分は親から愛されているか、友達から信頼されているか、先生にどのように思われているか等々。特に、何かにつけて注意を受けて育った子は、大人への不信感も強い。
ある時、日頃から、学級担任が手を焼いている子どもたちが教室でふさげていて、ガラスを割るという出来事があった。当然、厳しくその行為を責められた。子どもたちにも言い分はあったのだろうが、それを訴えるような雰囲気ではなく、ひたすら下を向いて、時間がすぎるのを待つような雰囲気があった。 失敗をした時にはどうすればいいかというそれなりの知恵を身につけていたのである。この様子を見て、この失敗を心の傷にしてはいけないと思い、立ち直るきっかけにする方法はないかと思案した。「信じる」こと、これが結論だった。
学級担任から出来事の概要を聞いた後、
「君たちは、いい子なんだな。そんないい子 がこの学校にいてくれてうれしい。」
このように話を切り出した。下を向いていた顔が急に上がった。
「君たちには、誰もやらない勇気がある。い ままで、このようなことをした人をあまり 知らない。勇気があるのだよ。」
「やりたいと思ったことを実行する行動力も ある。」
「行動するには決断をするという力も必要だ ね。それも兼ね備えている。いい子だ」
出来事にはふれず、その出来事が起こるために必要な力にふれ、勇気、決断力、行動力のあることをほめた。怪訝な顔をする子どもたちに、
「しかし、あなた達の持っているその力を、 表す今の方法は、今の社会には合わないの です。物を壊すのが普通の社会ならまさに 英雄だし、そういう時代なら、偉人になる くらいの力を持っているのに惜しい 」
「勇気、決断力、実行力を今の時代に合うも のに生かしたら、すごいのに。」
と、言いながら、エジソンを初めとして偉人と呼ばれる人の生き方について話したあと、一週間を限度に、自分の中にある輝く力を生かす方法を考えさせた。

 一週間後の子どもの輝きが今も印象に残っている。もうこの子たちは大きく道を外さないだろうという確信が持てる顔になっていた。

 いたづらも積み重ねていけば、反社会的な行為を平気でするようになる。しかし、「信じる」ことを軸に、その子の輝きを大事にし、失敗を生かすことに向ければすばらしい人材になるという可能性も大きい。
子どもは、大人の育てたように育っていく。
この程度の子と思えば、その程度に育つ。そうだとすれば、失敗とも思える出来事であっても、子どもと向かい合うチャンスと捉え、可能性の大きさを信じ、夢をみることも大切と思う。
勇気、実行力、決断力を秘めたあの子どもたちが、いつか、社会に役立つ功績を挙げてくれるだろう。・・・という夢を持たせてくれた子どもとの出会いである。
「信じる」ことは信じる側にも勇気がいることだが・・・

 
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