花藻俳人 ★既刊号の俳句
(花藻720号より)
中川いさを
一瀑へ来て魂の芯まで冷ゆ
紺の玻璃破り競泳始まりぬ
点滴の一滴一いのち惜し
北田夏生
土間の南瓜蹴飛ばす村のシンデレラ
田園の彩甦る大夕立
酔醒め襟かき合わす宿浴衣
稲葉茜
海月透く透けざる吾を前にして
まだ微熱残る日昏れの百日紅
鬼やんま目玉にうつす敵味方
北村しげとし
皺のなか声の若さの生身魂
ふくよかな土偶の乳房夜の新涼
露の野や隅の欠けたる石の斧
森川紀子
薔薇崩れ怠惰の匂い残しおく
白き腹晒して蝉の命果つ
内視鏡半分通過汗固まる
大塚春月
処方箋一枚きりの夏を病む
身の内のどこか濡れいて虹二重
白南風や奥を灯せり老舗茶屋
ものうげに猫が尾を振る熱帯夜 芳江
幼児の畳水練蝉時雨 武人
公園の真中に立ちて五月抱く(まさこ)
青葉風五臓六腑を青くする(となみ)
万緑の起伏へ犬を放ちけり(夏生(
全開のシャワーに脳の目覚めきり(幸司)
青年の城万緑の砦とす(修)
雲という空の消しゴム樟若葉(ひろし)
老鶯は神の溜息五月の詩(いさを)
みどり降る太古をつなぐさざれ石(茜)
透けるまで五体を去らす若葉風(好江)
つつじ燃ゆ真昼の余白うめつくす(正子)
紅一弧残して時雨去りにけり いさを
七草や土鍋にひとりの粥あふれ 茜
余生なお女忙しく冬菜漬け 満寿枝
風呂上がる過渡より柚子を匂わせて 夏男
千の菊千の顔して菊花展 青波
ヘルメット脱げば童顔冬の月 幸司
イブの夜の父の顔してケーキ切る 武人
蓑虫の鬱を離れず眠りいる 衣子
折れ曲がる風のたしかさすすき散る となみ