花藻
ひぐらしに耳を預けて面を彫る いさを
旅カバン離島の秋をつめ残す 茜
向日葵に胸底の詩覗かれて 光栄
秋刀魚焼く別の生き方知らず老い 満壽枝
彫り深き桔梗の空でありにけり みどり
むれなしてああだこうだと秋の鯉 汀子
また曲がる径は城沿い萩の風 夏生
おしゃべりに大ひまわりの疲れけり 青波
切り株は秋の詩人の指定席 和士
肋骨の溝を深めて猛暑去る 紀子
生涯に誇るものなし茗荷汁 春月
曲がりしは曲がりしままに糸瓜垂る となみ
名月に手が届きそうビル屋上 幸司
花藻683号
ぎしぎしと肋骨鳴らす残暑かな いさを
ラムネ飲むこの青空を独り占め 茜
碧き灯に平家哀しや恋蛍 満壽枝
蛍の灯とぎれとぎれに水の音 汀子
天守は遠し心太でも喰らおうか 夏生
ドロップを舌に遊ばせ敗戦忌 春月
向日葵や喉を潤す水もらう となみ
鍋みがき小さき幸せ濃紫陽花 紀子
朝顔の蔓がはみ出す子の日記 幸司
花藻 679(平成14年 5月)
地に落ちてまんだらとなる寒椿 いさを
藍染めの藍柔らかき東風の街 いさを
干鰈余生裏向き表向き 茜
落ちてなお崩さず緋色吐く椿 満壽枝
ざわざわと夜の校庭花辛夷 汀子
満願の湯を溢れさす遍路宿 夏生
蜥蜴出て用事なき身をもてあます 和士
紺と緋で色紙で足る雛祭り 幸司
花藻 669(平成13年7月)
さくらんぼ一粒づつに灯を宿し いさを
ひとときは女でいたい夏帽子 茜
百足虫の悲運ひと世にしゃりしゃり出で 汀子
折り紙を折って兜の角を立て 夏生
天と線描きて蛍の闇動く 青波
麦秋や酒屋へ一里黄泉へ二里 和士
人生は還暦からよ花菖蒲 幸司
音立てて崩る青春青あらし 紀子
乗り継いで旅を気ままに遅桜 春月
花藻 668(平成13年6月)
風は自在に散るゆく花は人臭き いさを
空の青踏んでシートの花見客 茜
沖といい遠いといい 春霞 汀子
子育て期古り地球儀に春埃 夏生
花冷えという美しき一語かな 青波
明日よりも今日が大事と花は葉に みゆき
登り来て視野に展けし花・花・花 幸司
深海魚たらむ春暁の底をゆく 幸子
陽炎を歩いて女透きとおる きぬ
少年の大志は一つ揚雲雀 となみ
春一番青い帽子を追いかける 須美
花藻 669(平成13年7月)
春昼やロボット犬の眼が睡る いさを
ほほかぶり弱みは見せぬ彼岸婆 茜
分校の生徒三人燕来る 和士
花堤眩しき恋の落ちており 汀子
鍵穴に啓蟄の日の風抜ける 満壽枝
薄紙でおおえば雛のまた眠る 芳子
命名の墨黒々と春兆す 夏生
空っぽの心を満たす花辛夷 幸司
花藻 666(平成13年4月)
風雪を幹に刻みて梅匂う いさを
病む脚に履き物重し牡丹の芽 千代子
如月に苦虫つぶす鬼瓦 茜
少年に男の匂い春兆す 夏生
寒緊まる地鎮の祝詞朗々と 幸司